居ぬ

リビングには常に君がいたので、人は夜中誰かの気配に慄くのが通常だろうが、対して僕は誰の気配もしない静けさに恐怖を覚える。恐怖の正体は寂しさであるかもしれない。まだ君がいないことを実感したくないのだ。君のための水桶であったり、マットやスロー…

老いる国

年をとりたくない。そう思うことが増えた。バイトでペアのおばちゃんが定期的に腰をさする様。そこへ苛立ちを早歩きで表現しながら入店し、マイルドセブンだとかキャスターだとか、昔の呼び名で注文するおっさん。栄養ドリンクを毎回五本飲む夜勤の男。それ…

ひともしごろ

2時間ほどツタヤにいた。 自動ドアが開くと、ポーチに滞っていた空気が風となって流入してきた。雨の匂い。手動の扉を押して外に出る。まだ降っているのかと思ったが、これはアスファルトに染み込んだ匂いであった。すっかり日が落ちた。しかし星はなく、空…

英会話塾の先生

子どもの頃通っていた個人の英会話塾のことを思い出した。 教室は先生の自宅で、生徒は僕を含め3人。と言っても曜日ごとにクラスがあったらしく、全体では10人くらいいることを何となく知っていた。 先生の名前はミカ。英語の授業のため僕らは呼び捨てしてい…

バンドマン

もう20時か。 エレベーターを降りると、外はもう夏の匂いがしていて、空気は温く、適度に湿っていた。 カエルは一匹が鳴くと、他も一斉に鳴き始めた。それがいかにも生き物らしいと思った。 技術はない。ないくせに12万のギターを背負った。右腕でカシオの古…

バイトマン

起きた。バイトがあるために起きてしまった。本当は日が沈むまで寝ていたかった。 生活があるために仕事をするのか、仕事をするために生活があるのか。鶏と卵にも例えられそうな議論が脳内で交わされた。でも、すぐ閉じた。 ぐでたまの何が可愛いんだか僕に…